脇差 銘直勝関連事項
 事 項  刀の分類と脇差の種類
 文 献  得能一男『脇差入門』(光芸出版 昭和50年)79〜82頁
刀身長による分類
 刀剣を分類するには、使用方法によって分ける方法と刀身長によって分ける方法があり、この二種の分類法を併用して現在の刀剣の分類方法が成りたっている。
 使用方法による分類法によれば、刀剣を垂下して佩用(はいよう)するものの代表が太刀であり、横刀(たち)、刀子(とうす)などもこの範囲に入れられる。また刀剣を帯その他のものに挿入して帯用するものが、刀、脇差、短刀などである。刀身長による分類は、刃長が二尺以上のものを太刀、刀とし、一尺以上二尺未満のものか脇差、一尺未満のものを短刀に分けている。
 この二種の分類法を比較すると、前者の使用方法による分類のほうが古く、大雑把な分類法といえる。この分類法は刀剣を太刀と刀の二つに分け、太刀は佩用するもの、刀は帯用するもの、というふうに完全に使用方法によつて分類している。この当時、刀と称しているのは後世にいう刀ではなく、打刀、腰刀、懐剣など八、九寸位から一尺五、六寸位までの後世にいう脇差、短刀をさしている。同一寸法のものでも、外装や用途によって打刀、腰刀、懐剣、剃刀、首掻刀など、いろいろな名称があつて繁雑である。
 刀身長によって分類する方法は、使用方法による分類法に較べると時代の新しい分類法である。これは、一般に刀剣を佩用するという習慣が廃れてしまってからの分類法で、室町末期から江戸初期にかけて一般化されたものとおもわれ、俗説では本阿弥家による分類法といわれている。現在の分類方法はこの後者の分類法を主にし、前者の使用方法による分類を若干加味したものである。

  太刀(たち)
 太刀は刀身の刃部を下にむけて、侃緒その他によって腰間に垂下して佩用するもので、一尺五、六寸以上の刀剣をいうのである。通常の太刀の寸法は二尺三寸前後から二尺五、六寸位のものが普通で、それより小振りのものは小太刀、特に大振りのものは大太刀ともいうことがある。
 古くは「つるぎ」とも「たち」ともいい、万葉集にも「都流岐太知」(つるぎたち)の語がみえているが、都流岐の語源「直切」(つるぎ)であり、太知の語源は「断」(たち)であるという。 (略)

   刀(かたな)
 刃長二尺以上の片刃の刀剣で、刃部を上にむけて帯その他に差して帯用するものをいう。現在の銃刀法では刃長六十センチ以上のものを刀と称することになつている。銘は、通常の場合は差表に切るのであるが、新刀では肥前の忠吉一門が刀でも太刀銘に切り、古刀期では青江鍛冶の一部が太刀に刀銘を切っている。
 刀は和名抄に「剣、似レ刀而両刃日レ剣」(「レ」は読み方が帰る−引用者)とあるように造り込みが片刃であるから、「かたは」がなまって「かたな」とよばれるようになったものという。
 刀という名称はいろいろに使われており、刀剣全部をひっくるめて刀と総称することもある。また室町期以前に刀といったのは、太刀に対して刀といっているので、現在の短刀や小脇差に該

当する寸法の腰刀や打刀のことをさして刀といっているから、注意を要する。室町末期から以降は、刀といえば、二尺以上の打
刀(うちがたな)をさすのが常識になってきている。

  脇差(わきざし)
 刀と同様に刃部を上にむけて帯その他にさして帯用する。刃長一尺以上二尺未満の打刀をいい、銃刀法では三十センチ以上、六十センチ未満の打刀を脇差と称している。脇差は寸法によつて、大脇差、中脇差、小脇差に分けている。
 1 大脇差 一尺八寸以上、二尺未満のものをいい、ほとんど鎬造り(しのぎづくり)に限られている.江戸時代には、幕府からたびたびにわたって大脇差の使用を禁止する法令が出されているが、たびたび法令が出されるということはその法令が守られなかったことを示している。秀吉の刀狩以降の封建制のもとでは武士以外の階級の者に対しては双刀の帯用を認めなかったが、脇差だけは例外的な場合には認めていた。博徒など無宿渡世のものは、例外として帯刀を認められた旅行中であると称して大脇差を常用していたので、無宿者の別名を長脇差ともよんでいる。
 2 中脇差 一尺三寸以上、一尺八寸未満のもので、鏑造りのものがほとんどであるが、その他平造りや鵜の首造り、菖蒲造りなどの造り込みのものもみられる。薙刃を改造した脇差もこの中脇差寸法のものが多く、その場合には切先を棟のはうから磨るので帽子が焼きづめになり、?(はばき)もとに薙刃樋のあるものが多い。また通常の武士の差料である大小拵(だいしょうこしらえ)の脇差は中脇差が標準であるから、この寸法の脇差は大脇差に較べて製作本数も多い。
 3 小脇差し 一尺以上、一尺三寸未満のもので、平造りのものが圧倒的に多いが、片切刃造り、鵜首造り、冠落造りもある。鋳造りのものもあるが、その場合はほとんどが大切先になったものか、鶉の首風に鎬地の薄くなったものが多い。平造り七に対してその他の造り込みが三の割合で残されているのではないかと思われる。南北朝期の腰刀に造られたものはこの小脇差寸法のものが多く、その後もこの様式のものが多数作られているので、この平造りの小脇差のことを、寸延び短刀とも喰出しともいい、首取脇差ということもある。

  短刀(たんとう)
 刃長一尺未満の片刃の刀剣で、刀や脇差と同じように、刃部を上にむけて帯や袴の紐に挿して使用するものである。古くは「大刀子(とうす)」といい、中世では「腰刀」「小サ刀」ともいっており、外装や用途によって鞘巻、ヒ首、剃刀(さすが)、右手刺(みぎてさし)、鎧通しなどいろいろによんでいる。これらの古い名称でよんだ場合の刀身の寸法は一定していなくて、七、八寸から一尺三寸前後のものが多いので、そのうちで一尺未満のものを短刀、一尺以上のものは脇差と現在では区別している。銃刀法
では三十センチ未満の片刃の刀剣を短刀といっている。
 造り込みは、大部分の短刀が平造りであるが、片切刃造り、菖蒲(しょうぶ)造り、冠落(かんむりおとし)、鵜の首造り、おそらく造り、両刃造り、鋒両刃(まつさきもろば)造りなどもあり、稀に鎬造りの短刀があるが、有名刀工のものには少ないようである。
[カッコ()は、原文ではルビの表現である。なお、原文は縦書きである。]